5月23日
※世界の子ども交流コンサートでの衣裳/イソギンチャクのイメージで。金井ひろみ・作
もう何年前のことか思い出せないけれど、鼓童時代にヨーロッパツアー中の休暇というのがあって、物価が安そうだったのと、少しでもアジアの匂いのする場所に行きたくて僕はフランスからトルコへ飛んだ。
この時はY-ケンちゃんと二人旅だった。なぜケンちゃんと一緒だったか、理由は思い出せない。
イスタンブールを何日かぶらついた後、やっぱ地中海で泳ごうということになり、バスで一日走って場末のリゾート風観光地に着いた。海岸近くの安ホテルを見つけてさっそくビーチへ直行。夕方の五時か六時だったはずだが、日は高く二時か三時の陽気だ。
砂浜は少なくほとんどが岩場だ。そこでドボンと飛び込んで、ぽっかりと仰向けで海に寝転んだ。地中海の上に浮かぶ黄色い太陽に目を細めながら、僕はアラン-ドロン(古い?!)の気分だった。ひと泳ぎして岸に戻ろうとしたその時、気がついた。
海面の下が真っ黒いウニで埋め尽くされていたのだ。食べられるようなウニなら嬉しいが、ちっちゃこいただトゲばかりのウニで、こりゃイカンと焦ったのもいけなかったのか、左足親指あたりを鈍痛が走る。どうもウニをキックしてしまったようだ。嫌な感触。ゆっくりと二次災害に遭わぬよう、そろそろ海の中で冷や汗をかきながら陸に上がり足の裏を見ると、親指がミニ亀の子タワシのようにトゲだらけになっていた。
その場でもかなりトゲは取ったが、まだ皮膚の中に埋まっている。足を引きづってホテルに戻り、裁縫針と刺抜きで格闘すること三時間、百数十本のトゲを抜いた頃、たらりと一本の鼻水が床に落ちた。夢中でトゲを抜いていたので、夜のとばりが降りるのも、まだ濡れた海水パンツ一枚だったことも忘れていたのだ。
そこへYケンちゃんが帰ってきた。さすが彼は天草出身だけあってミニタワシにはなっていなかった。
その夜、僕はまずは恒例の下痢から始まり第二ラウンドへ。それから三日間、風邪と下痢で地中海の見渡せるホテルのベッドで横になっていた。病気が回復した頃、その地も離れることになった。
自慢するつもりはない。僕は海が好きなだけ。悪い時もあれば良い時もある。※和太鼓ワークショップに参加した子どもたちと本番前の練習後に/東京国際フォーラム控室にて
※世界の子ども交流コンサートで大太鼓にワニの飾り付け/舞台美術ワークショップ班製作
よい思い出も一つ。
僕がこれまで体験した最高のビーチは、プエルトリコのクレバラ島(CULEBRA)のフラメンコビーチだ。
純白の砂と遠浅の浜に透き通る海、ここはカリブ海と大西洋の交わる海。頭上には紺碧の空。
ここまでの条件なら沖縄でも叶うだろうが、違うのはこの島では白馬や牛や鹿が野性なのか、自由に島中を歩いていて海岸にもやってくることだ。
彼らがビーチにやってくると人は海に避難する。彼らの方が圧倒的に数が多いので恐いくらいだが動物の楽園でもあった。島の一周15キロほどの道を走っていると、道をおおい尽くす沢ガニロードや蚊の大群と出くわす。毎日スコールがあってどっと雨が降り、その他はドンと青空、一年中カリブの夏だ。この島には八日間居たが、たったそれだけで皮膚の色が現地化した。※プエルトリコ、サンファン(SAN JUAN)空港で 1984.6.16
ま、そんなことを書こうとしたのではなく、海の思い出をたどっていくと自然とこのように指が動いてしまった。
そう宝の海のことを書こうと思っていたのだ。
海と島が好きだ。
どこに行っても島が近くにあると耳にすると、つい船に乗って行ってしまったあの頃を思い浮かべながら、少しだけでも海の匂いのする太鼓の曲を作ってみたかった。子どもに還ったつもりで‥‥‥。
プーク人形劇場版『宝の海』では、宝の海に出かけるお芝居バージョンを作りました。さっそく某小学校の先生から「うちでも上演したい」と声がかかりました。いいんです。どんどんやってください(ただし、連絡は下さいね)。宝の海はあなたのそばにあります。でも僕にとって、本当の宝ってなんだ?
家族か?オンナか?金か?いや、やっぱり自分の命か?夢か?
よくよく考えていると、いよいよ判らなくなってくる。確かに自分の命をかけても守りたいのは子どもたちだが、だからといって、子どもが私の宝です、なんて恥ずかしくて絶対に言えないし、ちょっと違うだろう。
宝は自分の中にある。
だけど、どこにあるのか判らない。それが何なのかも今もって判らない。でも必ずあると信じている、そう信じることが宝だと思う。※プーク人形劇場版『宝の海』/真ん中が太鼓の中から生まれた「ドンコちゃん」人形遣いは渡辺真知子さん、上左=富田と、右は共演の井上智彦さん
※世界子ども交流コンサート本番の写真はこちらをクリック
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インターネット版 『月刊・打組』2000年 5月号 No.56
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