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富田和明的個人通信

月刊・打組

2004年 3月号 No.92(3月1日 発行)

このページはほぼ毎月更新されます。年10回の発行

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富田和明 なにみてたたく作曲講座

1月31日

 東京築地の地に降り立てば荘厳なる築地本願寺の石造りが目に入る。
 延宝七(1679)年に八丁堀の海上を埋め立て建造された本願寺は、関東大震災後に現在のインド洋式に再建された。
 この本堂がたたずむ横丁に兎小舎はある。

 50人が入れば満員御礼になるミニミニホール。
 ここがその昔海の上だったなんて、今では想像もできない。
 こんなに小さな空間ながらも防音設備があり、録音機能を整えたホールは他に知らない。ピアノだってスタンウェイだ。
 ここで初めて太鼓を叩いたのは1995年3月。山野實さんの呼びかけで開いて頂いた『地震お見舞コンサート』でだった。
 その後、僕がここを気に入って始めたのが、『富田和明なにみてたたく兎小舎』コンサートシリーズ。
 第一夜が始まったのがその年の12月、 最終夜・第十五夜は2000年7月。
 これまでたくさんのゲストに来ていただいて、お喋りと演奏をお楽しみ頂きました(ちなみに第一夜のゲストが佐藤健作で、第十五夜のゲストが熊谷修宏。この時に作った曲を今もって重宝しております。桶太鼓曲の『萬來』や、口上付きの『ういろう打ち』など)
 そして和太鼓ワークショップ『月一打』が始まったのはその年の9月、今年の1月まで続けました(この月一打は発展解消させ、4月から太鼓アイランド目黒で『伝統太鼓塾』となります)
 こんな風に早いも ので富田と兎小舎とのお付き合いはもうすぐ九年にもなる。
 今回、兎小舎の閉鎖 が決まり(現在売り出し中)、買い手が付けばいつ突然取り壊しが始まるかもしれ ない状況で、その前にもう一度、この慣れ親しんだ空間で何か自由な時間を持ち たいと考えた企画が『富田和明 熊谷修宏 フリートークライブ2004』だった。
 この夜のライブを持って、兎小舎は休館となっています。
 トークライブは、太鼓打ちが太鼓も叩かずどうするんだ?という大いなる疑問と期待を胸に、かなり濃いファンの皆さまにお集まり頂き最後の夜を楽しみました。
 ライブでは気ままに話す内容と、皆さまから頂いた質問に沿ってお答えするコーナーがありました。
 今回はその中から、この日にもお答えしましたが、もう一度、富田式の曲作りについてのお話をしたいと思います。

 

 どうしたら曲は作れるのか?
 これはよく質問される事です。人様々、数多の方法があると思います。僕のやり方が、皆さんの参考になるのかどうかは判りませんが、今日は思いつくまま幾つかの方法を上げたいと思います。


『どこで 誰が(何人で) どんな太鼓を どんなスタイルで 叩きたいのか?』を考える。

 これが決まると、三割くらい(時には五割)は出来たようなもんです。
 「どこで」= どんな場所で演奏するのかを想定します。
 屋内、屋外、劇場、ホールなど、イメージできた方がいい。遠く離れた場所で向かい合って叩いたり、畳二畳の舞台で二人が背中合わせということもあるかも(?)しれない。
 「誰が」= 人がはっきり決まっている場合は、これはとても重要。
 顔を見て即曲が産まれる事があります。正に人との出会い。美しい人、個性的な顔立ちの人、またその人の得意な打ち方とか技術のレベルもあります。僕の場合は特に顔が見えないと、まず浮かんでこない。
 「何人で」= 唄で例えればメロディーとそれに和音を付けたり、バックコーラスの部分を考えます。四人でやるのと百人で叩くのと同じ四パートにしても音のボリュームがまったく違うし。
 「どんな太鼓を」= 太鼓の種類をどう特定するのか、組み合わせるのか、太鼓以外の楽器も入れるのかなどを考える。
 新しい楽器を開発したり、またほとんど見たことのない太鼓が手に入ればそれだけでも特長が出てかなり作曲の近道になる。
 「どんなスタイルで」= 正面打ち、横打ち、ふせ打ち、抱え式、おんぶ式などどれを選ぶのか。
 これらが決まると僕は絵に描きます。
 その絵を眺めながら、ここからどんな音が聞こえてくるのか、聞こえてきたら楽しいのかを想像します。

  机の前の絵を眺めるだけでは、とてもリズムは聞こえてこないと観念した時には、一番いいのは実際に叩く太鼓を叩くことですが、自前の稽古場など持たない身としては、小型の太鼓を持って川へ行ったり、高速道路のインターチェンジ下などへ行って、気分で音を出し、それを録音して持ち帰り、楽譜作りをします。
 他の好きな音楽を聴く事もとても刺激的で、突然リズムが閃いたりします。が、それを期待して、曲を作らなくてはいけない時に、やたらコンサートや映画や芝居、演芸などを見聞きしても、さっぱりダメな事もあります。
 やはり普段からの心のアンテナの立ち具合がモノをいうのでしょう。
 どうしてもダメで開き直っては家に帰り酒をガンガン飲んで寝て、翌朝鶏鳴の時分布団の中で閃く、という事も希にあります。
 よく音楽家で薬物に頼って逮捕されているのを新聞で見ると、気持ちだけは理解できます。
 こう書いていくと、いかに作曲するのかというと、いかに生活しているのか生きるのかという、その人の人生が映し出されるようでもあります。

 もっと具体的に考えた場合、今すでにある『伝統的な太鼓からアレンジを加えて曲にする』こともよくあります。
 鬼太鼓座の秩父屋台囃子にしろ、鼓童の三宅にしろ、地元の演奏そのままではなく、地元では出来ない、やっていなかった構成スタイルを作ればオリジナル性が生まれます。
 僕が新紀撃で最後に叩く大太鼓曲のテーマも八丈太鼓のリズムをアレンジしています。
 去年の7月25周年記念コンサートで藤本吉利さんと叩いた『御蔵祇園太鼓』も二人でしか叩けない小倉祇園にしようと考えたものだし、和太鼓トーク齊富で作った阿波踊り曲『南打ち町演舞場』も、リズムの一つ一つは、たくさんの踊り連が出す音をかき集めてきたモノですが、まったく違った曲になっています。
 伝統太鼓は宝箱です。
 現在では日本の伝統音楽にとらわれず、ラテン風、エジプト風、朝鮮風、中国風、インドネシア風、沖縄風、世界中の音楽からヒントを得て作られるようになりました。
 和太鼓の曲といっても今や地球は一つ、垣根はありませんから、例えばブラジルの唄を聞きながら、太鼓の曲を作ることもみんなやっています。
 好きな音楽を聞いて、好きな太鼓の曲にする。
 やっぱりこれは曲作りの王道です。
 でも同じ引き出しから作られた曲がにかよる事も否めません。そこでできれば人とは違う引き出しを探し求めることになります。

 僕の場合は、演劇的要素のモノにもとても興味があります。
 『言葉をヒントに声に出して太鼓の曲を考えることもその一つ。題を決めて、言葉を並べる。
 みかんは、「ミカン ミカン 美味しい ミカン」
 うどんなら、「うっどん うどん つるつる音たて食べよ」
 ソバだったら、「そばそばそばそば 大好き大好き あなたのそ〜ば」
など、たったこれだけのリズムでも初心者ならかなり叩いて遊べます。
 この最初に思い浮かんだ言葉を元に、次の言葉を考えて物語にしていきます。

 ミカン ミカン 美味しい ミカン
 どんどん食べ〜て 美味しい ミカン
 どんどん どんどん どんどん どんどん
 食べ〜て 食べ〜て 食べ〜て 食べ〜て
 お腹が はち切れそう パン!  
 おかあさん ズボンが破れたよ  
 またか!

という風にです。
 僕が作った『アフリカン焼きそば』は、フランスで見たアフリカンダンスチームの男性が叫んだ言葉を「お〜いヤキソバ喰わんかい ごっつうおいしんやでぇ〜」と聞いた事から作った曲だし、『ういろう打ち』は、演劇の勉強を始めた最初に覚えさせられた「ういろう売り」を曲にしたものです。
 これなら音楽が苦手な方でも作ろうという気持ちになってきませんか?

 もう一つ、 例えば夜、空を見上げればきれいな月が出ています。そこであなたは言葉を並べてみます。

  月 月 月
  きょうの月を あなたはどこで見ているの
  月 月 す〜き

 これを太鼓のリズムに並べ替えて「Aのテーマ」とします。
 次に、ちょっとだけ違うAのテーマをもう一度。

  月 月 月
  きのうの月を あなたはなにして見ていたの
  月 月 す〜き

 もう一回続けるとくどいので気分を替えて「Bのテーマ」を作ります。

  三日月 キツツキ お餅つき
  夕月 頭つき 力つき
  新月 ウソつき 生まれつき
  おぼろ月夜に 思いつき
  十六夜の月に 金がつき

 このくらい並べたら、も一回Aのテーマを持ってきて最後は繰り返して出来上がり。

  月 月 月
  あしたの月を あなたはだれと見ているの
  月 月 す〜き
  月 月 す〜き

ね、これで一曲太鼓の曲ができたとしたら‥‥、あなたは天才だと思って下さい。
 誰も天才などと感心しませんから、自分で思うんです。自信と絶望、天才と何とかは紙一重、時には両方必要だと思います。

 やっぱり今回の話も参考にはなりませんでしたか?
  もう少しまともな例文というか作曲実例が必要ですね。いつか書いてみたいです。読んで楽しい作曲講座。叩いてもっと楽しい作曲講座。曲作りは、難しいようで簡単。簡単なようで難しい。
 僕もいつも悩んでいることですから、人様に指南出来るようなことではないのです。
 でも難しいからと言って手も付けなかったら、本当の楽しさを知らないまま過ごしてしまうことにもなりませんか?
 うまく出来た時の喜びや、叩いてくれた人々の嬉しそうな顔、聞いて下さるであろう未知の人々の顔を思い浮かべながら、もう少し苦しむのが、産みの楽しみです。
 えっ? ウンチクはもういいから早く自分の新曲を作れって?  
 そうなんです、まだ出来ていませんでした。頑張ります。その前に部屋の掃除です。

 

   うさぎ うさぎ なにみてはねる
   十五夜お月様 みてはねる
   たいこ たいこ なにみてたたく
   想い出あこがれ 夢まぼろし みてたたく     

   長い間ありがとう、兎小舎

■『富田 熊谷 フリートークライブ2004』vol.2
 3月6日(土)19:00開演 東京都江東区/門仲天井ホール
 詳しくはこちらをクリック

 東京築地・兎小舎の閉鎖ファイナル記念企画として誕生したこのフリートークライブ。
 舌の根も乾かぬうちに、この第二弾です。
 今回の会場は、三年前の2001年12月、太鼓打ちコンビ『和太鼓★新紀撃』(富田と熊谷) が産声を上げた門仲天井ホールとなりました(今回も太鼓は叩きません)。
 いったいどんなトークを繰り広げるのか?
 いったい何人の方にお越し頂けるのか?
 本人たちもビックリの、無謀にもその第二回!
 お立ち会い頂ける皆さまのお越しを、心よりお待ちしております


インターネット版 『月刊・打組』 2004年3月号 No.92

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